第15章 道
ただ、自分ばかりが幸せでいいはずがない。
安土に戻り、ここが自分の日常になりつつある私にはしなければいけない事がある。
それは、顕如様と蘭丸様の事。
まだ今回と本能寺での沙汰の決まっていないお二人は今、この安土城の地下牢に入れられている。
顕如様の口から真実を知ったあの日、あまりの衝撃に驚きを隠せず取り乱してしまったし、結果として、私は顕如様に騙されていたわけだけれど、憎む気など起こるはずもなく、何度考えても感謝の気持ちしか浮かんでこなかった。それは蘭丸様に対してもそうで、あの時の口ぶりからして、蘭丸様も私の仇が信長様でない事はご存知だったのだろうけど、やはり私を助けてくれ優しくしてれた感謝の気持ちと、不器用に握られた握り飯の事を思い出し胸が熱くなった。
何とかお二人を助けたいと思うも、私を連れ戻しに来てくれるまでの、今までの信長様の気持ちを思うと、中々この事を打ち明けられないでいる。
掃除のフリをして地下牢に近づこうにも、代わる代わる番人がいて、近づける隙はなさそうだ。
でも、二人のお命をお助けしたい。
信長様にこの事を言えば、また激しく抱かれて阻止されてしまうかもしれないけど、もうお二人の沙汰が下るまでにはそう時間はないはずだ。
今宵こそは信長様にお話ししようと決意し、私は仕事を終えて天主へと戻った。
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「空良、こちらへ来い」
湯浴みと夕餉を済ませ、意を決してお二人の助命を願い出ようと思った矢先、信長様の方から先に呼ばれてしまった。
「はい」
言われるがまま、私は信長様と向かい合わせに座る。
「これを、貴様に返してやる」
信長様はそう言うと、スッと私の前に懐剣を置いた。
「これは............!」
それは、無くしたと思っていた母の形見の懐剣。
あの時、本能寺で手放してしまったと思っていたのに.....