第14章 寄り道 後編
床に崩れ落ち力が入らない体を叱咤する様に立ち上がろうとする空良。
何をしても決して泣かない女は肩で浅く息をし呼吸を整えながら、赤らめた顔を隠す様に湯あみの支度を始める。
可愛いと思う気持ちはあれど、俺に一向に靡こうとしない苛立ちが己の中で沸き起こり、それは時に残酷な仕打ちを空良に与えた。
「俺を、殺したいか?」
「え?」
突然の質問に、空良は戸惑いながらも俺を見る。
「俺を、殺したいかと聞いておる」
「っ、そんなの......殺せるなら殺したいに決まってます」
キッっと、真っ直ぐに俺を睨む大きな目は不安定に揺れていて、空良にはもう俺を殺す気がない事を俺は分かっていた。
「............これが、何か分かるか?」
刀と共に差し込んで持っているぴすとるを取り出し空良に見せた。
「?...........いいえ、分かりません」
「ぴすとる、だ」
「ぴす....とる?」
空良は戸惑いながら頭を傾げ、俺の言葉を繰り返した。
「そうだ。種子島は、知っておるか?」
「.......はい。見た事はありませんが、甲冑をも一瞬で撃ち抜く南蛮渡来の武器だと聞いたことがあります」
「このぴすとるは簡単に言えば、その種子島を改良し小型化した物だ」
「はぁ..........」
「種子島は大きな筒型の火縄銃で重く、弾を込め縄に火をつけてと手間も暇もかかりあまり実戦向きではないが、このぴすとるは軽い上に、弾を込めればすぐに撃ち放つことが出来る有能な武器だ。まぁまだこの日ノ元で手に入れる事は難しいがな」
全く訳がわからないと言った表情の空良の目の前にぴすとるを差し出した。
「?」
「これで俺を撃て」
「....................え?」
空良の顔からみるみる内に色が消えて行く。