第14章 寄り道 後編
「そう言えば、貴様にこれを渡した事もあったな」
あれは空良が安土に来てまだすぐの頃だった......
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「変わった事は?」
「はっ、何もありませんでした」
「ご苦労、今日はもう下がって良い」
一日の公務を終え空良の待つ(囚われた)天主へと戻った俺は、見張りの兵の報告を聞き下がらせた。
襖を開けると、廻縁に出て腰を下ろし外を眺める空良の姿が目に入る。
外を眺めているのに、空良の目にはおそらく何も映し出されてはおらんのだろう。
生きようとする気力のない女になぜ己がこれ程に心を惹かれるのか謎であったが、吹き付ける風に空良の長くて美しい髪が揺らさせると空良は僅かに目を細め、その姿がまた美しくて、俺は目を奪われた。
「綺麗だな」
思わず口から本音が溢れた。
「.................信長様?」
俺の声で振り向く女の目には、この女に触れたいと望む己自身の姿が映し出されているのだろう。
「お戻りでしたか。お仕事、お疲れ様です」
侍女にされた手前、大人しくその役に徹している空良は俺を見ると姿勢を正して頭を下げる。
「湯浴みに行く。支度をせよ」
「はい」
表情を変える事なく立ち上がり支度をしようとする空良を困らせたくなり、その手を引き寄せ唇を奪う。
「んっ!」
途端にガチガチに固まる空良を腕の中に閉じ込めて、その身体が緩むまで俺は容赦なく奴の呼吸を奪う。
空良の唇は甘く柔らかで、どれだけ重ねてもキリがなく俺を夢中にさせる。
「んっ、.....やっ、やめっ、んん............」
小さな口から漏れる吐息と抵抗の声が更に俺の欲を駆り立てる。
こんな風に女に触れた事も、拒まれた事も勿論ない。
女など、一時の快楽を満たしてくれればそれで十分な存在であった。
それがどうだ?触れても、触れても満たされない。まだ、欲しい。まだ足りぬと体が疼く。
「はぁ、............っ、」
足に力が入らず俺の腕に落ちる空良と、その蕩けた顔に堪らなく唆られる。
賭けなど最早どうでも良く、今すぐに抱きたい欲を俺はぐっと堪え空良から手を離した。