第14章 寄り道 後編
「織田様、失礼致します」
早朝、まだ褥に横たわり眠る空良を眺めていると、廊下から宿の女将の声がした。
「如何した?」
「安土より御使者がお見えになり、封書を預かりましてございます。早朝故、こちらに置いておきますのでお願い致します」
「分かった」
そそくさと封書を文箱ごと廊下へと置き、女将は足早に去って行った。
「ふっ、そう慌てずとも今は何もしておらん」
笑いを堪えながら俺は褥から身体を起こし、全裸のまま襖を開け封書を手にした。
中身はおおよその検討はついていたがやはり秀吉からの帰城の催促。
光秀の計らいで空良と宿に泊まり3度目の朝を迎えた為、秀吉からの催促も無理はなかろう。
宿の者達も、初日こそ夕餉だ、布団の支度だと頻繁に声を掛けてきたが、昼夜を問わず空良との情事に溺れるにつれそれも憚られたのか、食事の膳はひっそりといつの間にか外に置かれる様になり、先ほどの様に急ぎでなければ声を掛けてくることもなくなった。
今の女将も、まだ俺たちが事に及んでいると思い足早に去って行ったのだろう。
天主とは違い、閑静な山奥の宿で情事に及べば声も漏れると言うもの。これを空良に伝えては奴の事だ。今以上に恥ずかしがって愛らしい声を隠そうとすると思い言わなかったが正解だった様だ。
秀吉からの催促の文を読み終え再び布団へ潜り込む。連日連夜抱かれ続けた空良は流石にぴくりとも動かず深い眠りについている。
「ふっ、俺をここまで追い詰めた貴様が悪い」
空良の心を手に入れた俺の欲は中々収まるところを知らず、気づけば三日という時が経っていた。
布団を静かにめくり上げれば空良の綺麗な裸体が目の前に晒され、己の欲はまた立ち上がりそうになる。
「まだ抱き足りぬが流石にこれ以上無理をさせては城に戻れなくなりそうだな」
眠る空良の口に己の口を重ね、柔らかな唇を食む。
「これで今は我慢してやる」
これ以上は、眠っている空良に欲情し抱いてしまいそうで、俺は唇を離して空良を抱きしめる。
その時、ふと褥の横に置いた刀と”ぴすとる”が俺の目に入った。