第13章 寄り道 中編
「これは、顕如様に叩かれた訳ではありません。信長様の命を狙うように言われて嫌だと言ったら、私の隣に座っていた者に叩かれてしまって....」
「はらわたが煮え繰り返る。其奴、次に会ったら教えろ。即座にその首刎ねる」
その目と口調が、冗談ではないと言っていて、私を慌てさせた。
「そ、そんな恐ろしい事言わないで下さい。彼らからすれば、私はれっきとした裏切り者。当たり前の事をされたまでです。むしろ今は叩かれて良かったとさえ思ってますから」
こんな事くらいで許してもらおうなんて思ってはいないし、これからも許されなくていい。ただ、何もされないまま信長様の元に行っていたら私は後悔をしていたかもしれない。これはきっと私にとって必要な禊だったんだ。
「阿保、良い訳がないだろう、今後貴様を傷つける事は貴様であれ誰であれ許さん。覚えておけ!」
「は、はい」
「口を開けろ」
「え、何で......あっ」
強引に私の顎を掬い上げ口を開かせると、切れた口内の傷を信長様の舌がチロっと舐めた。
「っ......!」
「消毒だ、少し我慢しろ」
「ひゃい(はい).............ん..........ふっ、.......あっ」
ピリッとする痛みなんて最初だけで、すぐに甘い吐息が漏れた。
結局、立っていられなくなる前に信長様に抱き上げられ、お庭散策は終了となりそのままお部屋へと戻った。
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既に敷かれていた褥の上に降ろされ、その横に座った信長様の熱い目に射抜かれた。
「空良」
「はい......」
大きな手が、私の頬を撫でるように横髪に差し込まれると、優しく引き寄せられ反対の頬に軽く口づけられた。
トクトクと打っていた心の臓は、トクントクンと途端に忙しくなる。
「ふっ、貴様の心の臓は顔にでもあるのか?煩い上にここまで響いて来る」
一気に熱くなった私の頬をもう片方の手でスルリと撫でながら信長様は苦笑する。
「き、緊張してしまって.........」
本人には分からないと思うけど、この時の信長様の顔はいつもとても艶っぽくて扇情的で、こんなにも綺麗で素敵な殿方にこれから抱かれるのかと思うと、どんなに肌を重ねる回数が増えても慣れる事ができない。