第13章 寄り道 中編
「俺も、その場で貴様を拐って手籠にしていただろうな」
今度はからかう様な目で私を見る。
「そんな事、今までにもした事があるんですか?」
慣れたその口ぶりにチクリと心が引っかかる。
「誰かを欲しいと思ったのも、欲を抑えられず痛みを刻む様に女を抱いたのも貴様が初めてだ」
信長様は心の内を伝えてくれる様に、ぎゅっと私を抱きしめる腕の力を込めた。
初めて抱かれた夜が思い出される。
敵地の中、初めての事だらけで、怖くて、痛くて、そして悔しい程に甘くて.........
「私も、もっと信長様の事が知りたい」
あなたが私にくれる愛情に負けない様に、私ももっとあなたを愛したい。
温かな胸に顔を埋め、信長様の背中に手を回した。
「...........部屋に戻るぞ」
「え、まだ外に出たばかりなのに?」
なんの脈絡もなく急になんで?
「.........貴様が俺を知りたいなどと煽るからだ」
「は?............わわっ、信長様!?」
感傷に浸る時間すら私には与えられないのか、私を急に抱き抱えた信長様は悩ましげな顔で私を見ている。
「そんなに知りたいなら俺の腕の中でじっくりと教えてやる」
「やっ、そう言う意味では.......んっ.....」
これはいつもの、黙れの合図。
これをされて逃れられた試しは一度もない。
性急に奪われる様な口づけの時もあるけど、信長様の口づけは、私の唇を優しく食みながら焦らすように舌先でくすぐり、私をだんだんとその気にさせていく。
「んっ、..........ふっ、.........っ、いたっ!」
差し込まれた舌が頬の内側を撫でた時、染みるような痛さが口内を駆け抜けた。
「どうした?」
「あ、少し口内が滲みて....」
さっきまで大丈夫だったのに、少し時間が経ち、叩かれた時に切れた口内が痛み始めた。
「.............見せてみろ」
信長様は私を一旦下に下ろすと、私の顎を持ち上げて口の中を覗いた。
「........口の中が切れておるな。頬の腫れは大分引いたが、こんなになるまで叩くとは、顕如の奴、八つ裂きにしてもしきれん」
信長様は途端に怒りを露わにする。
やはり転んだなどとは露ほども思っていなかったのだ。