第13章 寄り道 中編
お互いの存在を確かめ合った湯殿での情事の後、私達は夕餉を食べ、秋色に色づき始めた夕暮れの中庭へと散策に出た。
「一日の終わりが早くなりましたね」
「そうだな」
「うー、冬が直に来るのかと思うと、考えただけで寒くなって来ました」
冬が苦手な私はぶるっとその身を震わせた。
「貴様は雪国の出身であろう?なのに寒さが苦手とは難儀な奴だ」
私の様子を見て呆れたように苦笑する信長様。
「うー、雪国の者全てが寒さに強いとは思わないで下さい。でも確かに雪はたくさん降りました。よく降る日なんかは背丈を超えるほどの雪が積もるので、朝一番の仕事はまず雪掻きからなんです。子供の頃は、掻き集めた雪の上に兄上と一緒に屋根の上から飛び込んでは抜け出せなくなって、よく父上に引き上げてもらってました。...........ふふっ..........って、すみません。こんな昔話、...しても楽しくないですよね?」
「いや、もっと聞かせろ。貴様の事は何でも知りたい」
ふわりと抱きしめてくれる身体は温かくて、とても安心する。
「お話するほどの事は何も。でも、家族の事をこんなに穏やかな気持ちで思い出し話せる日が来るとは思ってませんでした」
信長様が惜しみない愛情を与えてくれたからこそ、私は今こうして笑っていられる。
怖くて聞けなかった事も、今なら聞ける気がした。
「............あの地は、今、どうなっていますか?」
抱きしめられ、自然と掴んでいた信長様の着物を握る手にギュッと力が入った。
「貴様も知っておると思うが、朝倉は俺が滅ぼした」
「................はい、一乗谷の戦の話は私も聞いております」
当時の私はその話を聞いて、更に信長様に対する恨みを募らせていたから........
「あの地は今は織田の領地となっており、織田と同盟を結んだ者が治めておる」
「そうですか........」
山深い地であったけど、自然の恵み豊かな良い土地だった。
「俺を、恨むか?」
少しだけ、探る様な目の信長様。
「いいえ。それに、もし父と母があの日夜襲に遭わず一乗谷の戦で敗れ命を落としたとしても、私はきっと信長様に恋をしたと思います」
敵将として現れたあなたに、私はきっと心を奪われたに違いない。