第12章 寄り道 前編
周りの景色が見えない程に馬を飛ばす事ほんの少しで、私たちはすぐに目的の温泉宿へと到着した。
宿に着いてすぐ、着替えも何も持っていない事に気がついたけど、「こちらです」と言って通された部屋には私達の着替えが一式用意されていた。
疑問に思って女将に聞くと、「明智様から仰せつかりご用意致しました」と答えが戻ってきて、光秀さんの有能さを改めて知る事となった。
「夕餉までまだありますし、湯あみをされますか?」
「そうだな」
せっかく湯あみをしても着替えがなければと案じたけれど、着替えがあれば後はお城での日常と変わらない。お疲れの信長様にゆっくりと湯に浸かって頂き休んでもらいたい。
着替えを手にすると、信長様がそれを私の手から取り、空いている方の手で私の手を繋いでくれた。
「あの......」
「貴様はもう俺の侍女ではなく恋仲だ。もっと俺に甘えろ」
ちゅっとされる口づけは、前と変わらないはずなのに、トクントクンと心を煩くしてキュンっと締めつける。
「あ、ありがとうございます」
これ以上甘える事なんてない程にもう十分に甘やかされてる気がするけど、指を絡める様に繋がれた手が心地良くて、離れない様にしっかりと握り返して湯殿までの廊下を二人で歩いた。
「貴様も来い」
いつも通り全てをさっさと脱ぎ捨て裸となった信長様は、私にも一緒に入れと言いながら、私の帯に手をかけた。
「えっ!の、信長様?」
着付けた本人の私でさえ、もう少し解くのに時間がかかるであろう帯を簡単に解くと、さっさと着物を下に下ろされた。
一緒に入るのは、お城で二人組の男達に乱暴されそうになって以来で、あの時以来は脱衣所止まりで湯船には入っていない。
襦袢の紐にも手をかけた信長様。
「えっ!襦袢も脱ぐんですか!?」
「何も身に付けるな。貴様を綺麗に洗ってやる」
「きゃあ!!」
破られるかと思うほどに襦袢を引っ張り脱がされ抱き抱えられると湯殿の中へ。
「信長様っ、そっちは湯船では?先ずはお身体を....」
洗い場を通り過ぎてさっさと湯船まで来ると、そのままジャブジャブとお湯の中へ入ってしまった。
「の、信長様っ?」
ジタバタしたところで信長様の力に全然叶うはずもなく、湯の中で信長様は私を腕から下ろして前抱きに抱きしめた。