第12章 寄り道 前編
「あの.........やはりどこか体調がお悪いのでは....」
いつもは元気で余裕のある信長様が何だか苦しみに耐えている様でおかしい。
「空良、御館様はお前を救い出す為にずっと指揮を取られていてほとんどお休みされていない」
また光秀さんが横まで来て話をしてくれた。ただその顔は明らかにニヤついていて、信長様を心配している様には見えない.......
「そうなんですね。全然気がつかなくてごめんなさい」
光秀さんのニヤついた表情が気になるものの、信長様が苦しそうなのは本当で、顔をしかめている信長様の頬を労わる様に撫でた。
「いやいい、それよりもあまり俺に触れるな」
信長様は苦しそうに私の手を取り、頬から離した。
益々おかしい。いつも隙あらば抱きしめるか口づけて来る信長様がこんな風に言うなんて.....
オロオロする私とは正反対に笑いを堪えている光秀さんは更に話を続ける。
「御館様、この先を少し行くと温泉宿がございます。勝手な事とは思いましたが今日明日と貸し切りにしてありますので、お疲れを癒すためにも空良と湯治に寄られてはいかがですか?」
湯治、いいかも。
たくさん迷惑をかけたし、ゆっくり温泉に浸かって頂いた後は、お身体を揉み解して差し上げたい。
「随分と準備がいいな光秀」
「我が主君が次に何を望むかを考え行動するのも私の役目ですので」
「ふんっ、貴様の策にまんまとはめられるみたいで気に入らんが、背に腹は変えられん。今回は乗ってやる」
信長様の声色が、心なしか明るくなった。
「光秀、うるさい奴への説明は貴様に任せた。では行ってくる」
片手で手綱を握り、もう片方で私の体をしっかりと支えてくれると、
「空良しっかりと俺に捕まれ。馬をとばす」
「えっ、は、はいっ、きゃぁっ!」
言うや否や、馬は前足を上げて駆け出しはじめた。
ゆっくりと安土へ戻る兵達の列の横をどかどかと駆けて行く馬に皆が注目する。
その中で、一番驚いた顔をした秀吉さんと目が合った。
「なっ、......えっ、........御館様っ?一体どちらへ!?」
「光秀に聞け!」
驚く秀吉さんに目もくれず、一瞬で通り過ぎてしまい、私は心の中で何度も「秀吉さんごめんなさい」と呟いた。