第12章 寄り道 前編
「えっ?だって、恋仲は口づけたいときにして良いって............あの、私もしたかったので........ダメでした?」
「.........いや、ダメではない」
信長様は口に手を当てると私から少し目を逸らした。
何か.......様子が変?しかも.......
「信長様、顔が少し赤いですが、もしや体調がお悪いのでは.......」
少しだけ自分の身体を後ろに向かせて信長様の綺麗な顔の輪郭を指でなぞった。
「っ、..............」
途端に、信長様の身体がピクリと小さく動く。
ぷっ、ふぷっと、周りからはまたもや笑い声が聞こえる。
「ククっ、これは参りましたな。御館様」
私達の近くにいた光秀さんが、さもおかしそうに口に手を当てて笑っている。
「光秀さん?」
「流石、信長様を籠絡した娘だ。そんな天然の手管を使うとは、小娘のくせに中々の悪女だな」
「えっ?」
悪女って..........私?
「光秀、余計な事を言うな。此奴はすぐ間に受けてこじらせる」
「これは失礼を.....」
光秀さんは笑いながらも頭を下げた。
「信長様?」
「大事ない。気にせず前を向いて大人しくしておれ。落っこちるぞ?」
「はい」
.............とは言え、袴ではなく着物のまま横座りに乗せられているから、どうしても信長様の胸を真横に感じてしまって、心はそわそわと落ち着かない
ずっと心を誤魔化してきたから、タガが外れた心は大好きな気持ちが溢れてきて中々抑えが効かない。
「信長様」
「何だ?」
「大好きです」
少しはだけて露わになった胸元に軽く口づけて頬を寄せた。
「っ、................」
頬にあたる胸板が硬くなった気がした。
「貴様は本当に...........」
信長様は何かに耐える様に目を細め、私を苦しそうに見つめた。