第11章 傾国の姫
どれくらいの時が経ったのだろう。
訳がわからず泣きじゃくる私をずっと信長様が抱きしめてくれてた事は覚えてるけど........
涙も止まり、少し冷静になった私は漸く顔を上げた。
「あ、...........」
目の前には、優しく私を見つめる信長様の顔。
恥ずかしくて目を逸らし周りを見渡すと、周りにはもう誰もいない。
しかも信長様は私を抱き抱えたままいつの間にか矢の刺さった木にもたれて座っていた。
「ふっ、ひどい顔だな」
私の顔に手を当てて信長様は笑う。
「信長様は、知ってたんですね?」
揶揄われても怒る気にはなれず、当てられた手に自分の手を添えて問いかけた。
「知ったのは少し前だ。光秀に調べさせ、貴様が越前の朝倉に仕える領主の娘だと知り、記憶を辿ったが思い当たるものがなかった」
「とっくに、私の正体もご存知だったんですね。言って下されば良かったのに」
「貴様は貴様だ。どこの誰かなど俺には関係ない」
揺るぎなく強い目が私を捕らえる。
「私.........ずっと信長様にひどい事を.......」
命を狙い、恨み言や暴言をたくさん吐いた。
「大した事ではない。それに言ったはずだ、貴様の恨みも悲しみも全て俺が請け負うと」
「信長様.........」
止まった筈の涙がまた流れ出す。
「途端に泣き虫だな」
信長様は笑いながら、その唇で私の涙を何度も優しく拭ってくれる。
「の、信長様が泣けって言うから.......もう止め方が分かりません.......」
ずっと泣かないように涙に蓋をしてきたのに、その蓋を信長様に取られてしまった私はもう、涙を止める術を無くしてしまった。
「貴様の涙はこれからは俺が拭ってやる。好きなだけ泣いてその後は笑え」
「うー.......こんな私でも、まだ一緒にいてくれるんですか?」
「そんな貴様を愛してる。もう、俺から離れる事は許さん」
自分の居場所を失ってしまった私に、あなたはいつも手を差し伸べてくれる。