第11章 傾国の姫
「空良、あの夜の言葉を、今聞かせろ」
頬を腫らし、泣きじゃくってぐちゃぐちゃな私の顔を信長様は持ち上げ視線を合わせた。
「あの夜の言葉..........?」
何か、私言った?
「俺が薬で眠った後、俺に口づけながら言った言葉だ」
信長様が薬で眠った後.............?
「え...............、えっ、..........えぇっ!あ、あれ聞こえてっ!!!」
うそ........だってもう動かなかったし、眠ってたよね...........?
「早く言え」
「やっ、だってあれは........眠ってて聞こえてないと..........」
二度と会えないと思って気も昂ってたし.....
「ならばあの夜のように目を瞑っていてやる。そのまま再現しろ」
明らかにニヤついた顔で、信長様は目を閉じた。
なっ、なんて無茶振りを!!
目の前で目を瞑る端正な顔に触れるだけで、心の臓は飛び出しそうなのに.......
でも...あの夜、もう二度とこんな風に信長様に触れる事は出来ないと思ってた。
永遠の別れを決意してした口づけと告白。
なのに信長様は私を迎えに来てくれた。
この思いに、次は私が答える番だ。
「..............愛してます」
あの夜と同じように信長様の唇に触れるだけの口づけを落とす。
「聞こえん」
「っ、........愛してます」
「まだ足りん。もう一度言え」
「愛してます」
「もう一度」
「愛してます。.......あなたを、愛してます。たくさん酷い事をごめんなさい。そしてありがとうございます」
わぁ〜と、泣きながら信長様に抱きついた。
「ふっ、やっと手に入れた」
抱きつく私の髪を梳くように信長様は手を入れ、とびきりの笑顔を見せてくれる。
「貴様の帰る場所は生涯俺の腕の中だ。絶対に離さん。愛してる空良」
頭を引き寄せられ唇が重なると、私の中にあった苦しみや悲しみが溶けていくように心が軽くなっていく。
父上と母上を失った夜から、ずっと暗闇の中を歩いているみたいで沢山回り道をしたけれど、今日漸く私は自分の帰る場所を見つける事ができた。