第11章 傾国の姫
「っ、...........私といると......っうう、不幸に.......なりますよ?」
「何だそれは?貴様が俺の前に現れてから、俺は毎日が愉快で仕方がない」
「うーーー、っく、私は..........傾国の姫だって..............うぅぅ.........も、もう誰も不幸にしたく、っく、ない」
「貴様は誰も不幸になどしておらん。それに、傾国の姫と第六天魔王ならお似合いだ。そう思わんか?」
「うぅ.......訳が分かりません........ぅ〜」
目から止め処なく流れ落ちるのは涙だ.......
優しい声も、頬に触れる手の温もりも、信長様の全てが優しくて温かくて、もう、止められない。
「思ったよりも腫れておるな」
腫れた頬に手を当て、信長様は呟いた。
「っく、い、痛いから触らないで........うぅ」
今、一体どんな表情でいるの?
きっと、呆れた顔をしているに違いない。
見たいのに、でも涙が止まらなくて.........
「ふんっ、強情で可愛げの無い貴様から器量の良さを取ったら他には何も残らんだろうに、もう顔は傷つけるな」
とんでもなく失礼な言葉とは裏腹に、その長い指は優しく腫れた頬を撫でた。
「酷い!どうせ私は................」
手を振り上げて信長様の胸を叩こうとすると、手首を掴まれた。
「こんな暴力的で可愛げのない女を愛せるのはこの先も俺しかおらん。だから観念して俺にしておけ」
「っ........、うぅーーーー」
もう、ボロボロだ。
腫れた頬に涙でぐちゃぐちゃな顔。
こんな最悪の顔を目の前で見ても、愛を囁いて涙を口で受け止めてくれるのはきっとこの先も信長様しかいない。
「信長様はやっぱり.......うぅ...噂通り、っく、大うつけですね、.......っく」
そして、私はこんな時も可愛いげのない言葉しか言えない。
「ふっ、それは褒め言葉としてもらっておく」
涙でその表情はずっと滲んでいたけど、少しづつ近づいてきた顔を見たらとても優しく微笑んでいて...............
「愛してる」
とどめの一言と甘い口づけが、頑なだった私の心を完全に溶かした。