第11章 傾国の姫
「........んん!!!」
懐剣を握っていた手はいつの間にか信長様に掴まれ、震えていた身体は頭の後ろに手を入れる形で抱き寄せられ、二人の唇は重なっている。
何が一体起こっているの?
「っ、どうして...........んっ」
言葉は簡単に遮られた。
この口づけを........知ってる。
「黙れ」の口づけだ。
身体の力が抜けて、握っていた懐剣が手からすり抜けて下に落ちた。
「っ、..........んっ」
私の唇を食みながら割り込んで来た舌が優しくて、一気に私の目頭を熱くした。
「んっ、....やっ、離してっ」
このままでは泣いてしまいそうで、力一杯信長様の胸を押して顔を背けた。
「賭けは貴様の負けだ。約束通り貴様を貰う」
低くて良く通る、大好きな信長様の声と共に、逞しい腕が再び私を捕らえて閉じ込めた。
「は、離して下さい!私はもう、信長様の元には戻りません。..............どうして、どうしていつも......」
そんなに強引で自分勝手で、私の心を振り回すの!?
腕の中でもがいても、その手は力強く私を抱きしめていてびくともしない。
「もう離さん。貴様のこれからの人生全てを俺に寄越せ」
「は?......何言って......離して!」
「空良、...........貴様はもう、泣いていい」
「...............え?」
「貴様はか弱き女の身で今までよく耐えた。これからは、貴様のその怒りも悲しみも全て俺が請け負ってやる。もう好きなだけ泣いていい」
「......................っ、言っている意味がよく分かりません。私は別に...............!」
ぽろっ.......と、何かが自分の目から落ちた。
.......おかしいな。
信長様を睨もうと思って顔を上げたのに......
「わ、私は.........」
視界がぼやけて顔が見えない。
「私は........泣きたくないし、.........信長様を....っく、好きじゃありません」
目から何かがどんどん溢れ出して止まらない。
「それで構わん。俺が貴様の分も愛してやる」
打たれた頬と反対の頬に手を当て、頬を流れる何かを信長様は拭う。