第11章 傾国の姫
.....................ふぅ......と、信長様のため息が聞こえた。
「ここを狙え」
信長様は左の胸を指差した。
「................っ、」
「貴様と命を賭けるのはこれで最後だ。しかと狙え、外すなよ」
だらんと両手を下に下げ、信長様は力強い声で言う。
「っ....................何で....................?」
「俺の命は貴様にくれてやると言ったはずだ」
「.......っ、それは天下を取るまで待てって.....」
「そう思ったが、俺が取らずとも跡を引き継ぐ者が俺には沢山おる。貴様はそんなことを気にせず確実に俺の息の根を止めよ」
その言葉に嘘はないと.......その優しい目が語っている。
...............ほら、.............やっぱり私は、人を不幸にする。
信長様が冷徹なまでに人を殺め修羅の道を進んで来たのは、この日ノ本を一つに束ね豊かな国にする為。そんな途方もなく大きな夢がもう目前なのに、それを私が奪おうとしてる。
そんな事、して良いはずがない。
「信長様」
「............何だ?」
私はもう、誰も不幸にしたくない。
違う、そうじゃない。
願ってしまったから.............。
父上や母上の仇を撃つ以上に、あなたがその願いを叶える日が来る事を願ってしまったの。
私の望みはただ一つ。信長様が生きてその手に天下を掴む事。
だから............
「天下を.......必ず取ってください」
握り締めた懐剣を信長様から反対へと向けて、自分の心の臓を狙った。
...........................筈だったのに