第11章 傾国の姫
「信長様、全ての手筈が整いました」
顕如の根城となる近くの山奥に陣を構え、いつでも出陣可能になったと光秀が伝えに来た。
「家康と政宗の方はどうだ?」
「両者とも、既に迎え撃つ体制を整えたと知らせが届いております」
「.............分かった」
光秀の言葉を聞き、俺は顕如からの書状を手に床几から立ち上がる。
「俺が空良を取り戻すまで、貴様らは手を出すな」
「はっ!」
光秀は素早く頭を下げたが、
「秀吉、返事は?」
まだ一人、納得のいかない顔で頭を下げぬ男が目の前に.........
「っ信長様、敵は女を盾に取る卑怯な輩です。どんな手を打ってくるか分かりません。くれぐれもお気をつけ下さい」
顕如からの書状に乗る形で、一人空良を迎えに行く事に最後まで反対していた秀吉だったが、ここへ来て観念したように頭を下げた。
「ふっ、心配ない。俺は、何があっても死なん」
今度こそ、空良の全てを手に入れる。
だが、気がかりなのは空良の事。
強情な奴の事だ、こうなった原因は自分にあると、己を責めているに違いない。
貴様が今、泣いていない事は分かっている。
初めて会った夜から、空良はどんな時も一度も涙を見せなかった。
泣くのは弱者のする事。泣く暇があるのなら前に進めと、俺自身がそうしてきたし、そうあるべきだと思ってきたが..........、必死で涙を堪え、俯き唇を噛み締める空良の姿はもう見たくはない。
貴様が今そんな状態にあるのなら、早く連れ戻して抱きしめてやりたい。
「行ってくる」
空良、貴様は今、何を考えてる?