第11章 傾国の姫
広間に入ると、見慣れた顔ぶれが集まっていた。
彼らは皆、信長様に恨みを持つ者たち。
顕如様と蘭丸様の後に続いて広間に入り末席に腰を下ろした私に、皆の冷たく刺す様な視線が突き刺さる。
信長を殺し損ねた女
信長に身を売った女
我ら同胞の期待に応えず戻って来た女
彼らの視線からは、そんな言葉が聞こえて来る様だ。
こうして見るとよくわかる。
安土城に集まる武将達はみな、怒ったり笑ったりと、本当に仲が良さそうだった。
けれどここに集まる人々は、仲間というよりは同士と言った方がいいだろう。
怒りと復讐心に心を染めて、ただひたすらに信長様を倒す日を待ち望んでいる。
私も、ずっと復讐を心に誓ってこの同士達と共に過ごしてきた。
私一人が安土城の武将達や信長様と触れ合い人となりを知ったからと言って、彼らにそれを説明し、復讐をやめろと言うのは無理な話だ。
信長様の元にいた時には、あれ程敵同士だ、親の仇だと言っていたのに、私はとことん矛盾している。
「皆集まったな」
顕如様が皆を見渡しながら声を発した。
「いよいよ、決戦の時が来た。信長との長きに渡る決戦の末、沢山の同胞が無残にも命を落とした。我らを力で制圧し、全てを奪った憎っくき信長の命を今日こそ奪い、積年の恨みを晴らそうぞ」
静かに、けれども力強く、広間に集う甲冑姿の信徒や門徒達に語りかける。
皆の喉が、ゴクリと鳴った様な気がした。
「しかし顕如様、敵は安土に集う武将達を総動員して攻撃を仕掛けて来ると聞いております。我らはどう立ち向かえば?」
私の隣に座る男が不安を口にした。
「案ずる事はない。その為に空良をここに連れて来た」
顕如様は、末席に座る私を見る。
もう、嫌な予感しかしない。