第11章 傾国の姫
「堅苦しい挨拶は良い。空良、良く戻った」
顕如様は頭を下げる私の横にしゃがみ込み、私の肩にぽんっと手を置いた。
「本能寺ではしくじり、その後も何もできずおめおめと戻りました事、お許しください」
「そんな事は無い。お前は実に良くやった。信長はお前を取り返す為、明朝ここへ兵を進めると、城に忍ばせてあった者から報告があった」
「.................え?」
「本能寺よりお前を連れ帰った後、お前を天主に閉じ込め、片時も離さず寵愛していたと、城下でも天主の姫の話で持ちきりだ」
「それは.............」
顕如様の耳にまで届くほどに、私と信長様の話が広がっていた事に驚きを隠せない。
「顕如様、空良には辛い思い出です。もうそれ以上は.......」
横で話を聞いていた蘭丸様が、辛そうな面持ちで顕如様に進言する。
「そうだったな。いくら両親の仇討ちのためとは言え、女子のお前に辛い事をさせた。堪忍な」
顕如様は慈愛の目で私を見ると、優しく私の頬に手を当てた。
「もったいないお言葉でございます。でも、あの、信長さ、信長がここへ来ると言うのは、どう言う事ですか?」
声は、震えてないだろうか?
信長様が私を取り戻しに来るってどう言う事?
「あの男、よほどお前に執心と見える。安土城に身を寄せている武将達全てを率いてここに攻め入るつもりらしい」
「そんな........そんな事になったらここは......」
ドクンドクンと、胸は痛いほどに騒ぐ。
いくら顕如様達でも、あの武将達全てに攻められては勝ち目なんてない。
「案ずるな。数で勝ち目はなくとも、我らにはお前がいる。あと少し、我ら同胞の為にも、役に立ってくれるな?」
真っ直ぐに私を射抜く様に見つめる顕如様の目に、もう慈愛の色はない。
「私に........何をせよと.......?」
嫌な、予感がする。