第11章 傾国の姫
「蘭丸様、私は大丈夫です」
「無理しなくていいんだよ?俺は信長様の一番近くに仕えていたから、あの人が女の人をいっ時の快楽を満たす様に扱う様をずっと見てきた。でももうそんな日は終わったんだから、安心してね」
「はい。ありがとうございます」
いっ時の快楽を満たす様に.......
初めて抱かれた日はそう思ったし、男の人達に乱暴されそうになった時の湯殿での信長様はとても荒々しくて恐ろしかったけれど、あの後から私を愛していると、身体中が擽ったさを感じる程に愛を囁いてくれて.........
『貴様を愛してる。空良』
ドクンッ!
「.....................っ」
「空良?」
「な、何でもありません」
胸が痛い。
『必ず貴様は俺を好きになる』
「っ、蘭丸様、私...........」
「嫌なことを思い出させたならごめんね。もう言わないから。ほら、握り飯が手から落ちちゃう前に食べて。ね?」
「...............はい」
父上と母上を亡くして以来、涙は流さない様に押し殺して来た。
なのに、信長様の声を思い出すだけでこんなにも心が震えて涙が込み上げる。
「美味しいです」
涙を堪えながら必死でかじった握り飯はさっきよりも塩っぽく感じられて、必死で噛んで喉へと流し込んだ。
信長様との事は、私の、私だけの一生の秘密。
今はただ、この気持ちが気づかれない様に。大切に胸の内へとしまっておこう。
「蘭丸!空良を連れ帰ったとは真か?」
勢いよく襖が開くと、懐かしい顔が........
「「顕如様!」」
蘭丸様と二人、勢いよく現れた顕如様に頭を下げた。