第11章 傾国の姫
「俺は、あの子が信長様を裏切るとは思えないけど、唐の国の玄宗皇帝の様にはならないでくださいよ」
家康なりの助け舟なのか、傾国の姫とまで言われた楊貴妃を例えに出して家康が口を挟む。
「ふっ、楊貴妃か........。天主の姫、月の姫と来て傾国の姫とは、奴の呼び名も中々に忙しい」
それ程に、空良の存在は皆を惹きつける。
あれだけの女が顕如率いる荒々しい男どもの中にいて無傷でいられたのは、恐らく蘭丸が大切に守って来たからだ。
長らく俺の小姓として良く働いていたが、奴も俺と同じく、空良に心を奪われた男の一人だったとはな。安土の女どもがあれ程言い寄ってもなびかん筈だ。
俺としては、身も心も綺麗な空良のまま俺に引き合わせた事を礼を言いたいくらいだが、
「蘭丸は益々、俺の敵に回る事になるな」
大切に守ってきた女を俺に寝取られただけでなく、心も奪ったからな。
「信長様、作戦を」
空良の心を手に入れ優越感に浸る俺に、話を先へ進めろと光秀が促す。
「此度の敵は、石山本願寺の元法主顕如。奴らが根城を他へ移す前に包囲し、完全に奴の息の根を止めて牙を抜く。俺が直接指揮を取る。光秀は敵の拠点への誘導を、家康と政宗は密かに動いて包囲網を固めろ」
「「「はっ!!」」」
「御館様、俺は!?」
「秀吉、貴様は俺と来い」
貴様の事だ。蘭丸にも言いたい事が沢山あるだろう。
「はっ!」
「出立は明朝、急ぎ準備に取り掛かれ!」
「「「はっ!!」」」
空良、例え貴様が俺を破滅に導く傾国の姫であったとしても構わない。
俺が貴様を愛したように、貴様も俺を愛した。
俺たちが一緒にいる理由はそれだけで充分な筈だ。