第11章 傾国の姫
「ここまでが、俺が信長様にお伝えした事だ」
広間に入ると、既に光秀が皆を集めて先程天主で俺に報告した内容を伝えていた。
皆の頭が一斉に下がる中、俺は上座へと行き腰を下ろした。
「頭を上げよ」
時間は惜しいが、蘭丸が一緒であるなら今すぐ空良に何か危害が及ぶとは考えづらい。
「光秀から聞いた通り、本能寺で俺を空良に襲わせた黒幕は石山本願寺の元法主顕如で、蘭丸は其奴の放った忍びであった」
わざわざ危険を冒してまで空良を迎えに来た理由は一つしかないだろう。
「また蘭丸は昨夜この城に忍び込み空良を連れ去っておる」
「昨夜とは、空良は信長様と一緒だったのでは?なのにどうやって?」
秀吉が疑問を口にした。
これを言えば空良の立場が危うくなるが、言わずに前に進む事は難しそうだ。
「手口は本能寺と同じく、蘭丸に渡された薬を空良が俺の酒に入れ、オレが眠っている間に蘭丸と逃げた」
「では、空良は蘭丸に拐われたのではなく自分の意思で出て行ったと言うことですね?しかも信長様に薬を盛るなど.....」
秀吉は、最後まで口にできない程に、顔中に怒りを滲ませた。
「空良は、長きに渡り顕如により俺を恨むように暗示にかけられておる状態だ。奴を責めるな」
「なっ!信長様は空良を連れ戻すおつもりですか!?」
信じられないと言った表情の秀吉、
「そうだ。奴を連れ戻す」
そして二度と離さん。
「俺は、奴の親を殺してはおらん。そして奴はその事をまだ知らぬ。自分の屋敷が夜襲にあい家族が殺されていく中、一人残された空良を顕如が助け、俺がやったと洗脳されてきた」
「だからと言って何度も御館様の身を危険に晒すなど、もはや許すの範疇を超えております!それにそれでは周りに示しがつきません!」
秀吉の言い分は分かる。
裏切れば斬り捨てる。それが俺のやり方だ。
男女問わず、理由などあってもなくても一緒だと言って容赦なく斬り捨ててきた。
空良とて、同じように扱う事が義を通す事だと秀吉は言いたいのであろう。
だが、
「空良の事で反論は許さん。貴様がなんと言おうと俺は奴を連れ戻す」
俺は、奴のいない日々にはもう戻れない。