第10章 月の姫
完全に眠りへと落ち、力の抜けた信長様の身体からゆっくりと抜け出した。
身を起こし信長様を見ると、薬の力に抗おうとしたのか、苦悶の表情を浮かべている。
「ごめんなさい...........」
そっとその表情を撫でて大好きな寝顔へと変えた。
風邪はひいたことがないと言っていたけど念のため、布団を掛けてあげようとすると左の袖が引っ張られ、見ると信長様がギュッと握っている。
「!......」
ドキリとして信長様を見るけどやはり眠っている。気を失う直前に掴んだのだろう。
そっとその手を離そうとするけどかなり力強く握られていて、ひと指ひと指愛しい人の指に触れながら、胸が張り裂けそうな気持ちで離した。
「信長様............」
布団を掛け終わり、乱れた髪を整える。
「私を、愛して下さりありがとうございました」
あなたと過ごした100日にも満たない日々は、酸いも甘いも全てが詰まっていて、とても切なかったけど、とても幸せだった。
愛おしい人の頬をもう一度撫でて口づけを落とし、決して言葉にはできなかった思いを口にする。
「愛しています」
こんなにも苦しくなるほど誰かを好きになる日はもう来ない。
私の心を震わせ熱くした人は、後にも先にも信長様だけ。
もう二度と会う事はないけれど、
あなただけを...........
「あなたを、永遠に愛しています。さようなら信長様」
一度でも後ろを振り返ればその決心は揺らいでしまいそうで........
魔王と共に過ごした天主を振り返る事なく、私は必死で中庭へと走った。