第10章 月の姫
「月が.....きれいですね」
雲一つなく、夜空一面に輝く丸い月。
「ふっ、月など愛でた事もなかったが、そうだな。月の姫は夜な夜なあの月に帰りたいと嘆いたと言う。きっとこの地とは違い天上とは綺麗なのであろうな」
くっと、信長様は再びお酒を一気に喉へと流し込んだ。
公達たちは月の姫の出した難題を成功させる事が出来ず、月の姫はお迎えが来て月へと戻ってしまう。
その時月の姫は、寂しくはなかったんだろうか?
いくら月の住人だったとは言え、この地に生まれ、愛情を与えられながら育ち、愛を囁いてくれる殿方達がいたのに......
その中の一人も、愛さなかったのだろうか?
それとも、誰かを深く愛してしまったからこそ、月の世界で罪を犯した自分が人を愛してはいけないと思い、離れる決心をしたんだろうか?
所詮は絵巻物の中の話で真相などはないけれど、月の姫に会って、心の内を聞いてみたくなった。
あなたは、辛くなかったのですか?
「........今日は疲れました」
そろそろ、お別れの時間........
「ふっ、あの広い庭の落ち葉を全部掻き集めて焼き芋をしたくらいだからな」
信長様は盃を膳に戻すと、膳ごと縁に寄せて私を抱き抱え立ち上がった。
「今日はたくさん食べましたし、重く......ありませんか?」
いつも私を軽々と抱き上げてくれた信長様。
この逞しい腕の感触を絶対に忘れない。
「貴様はいつも羽根のように軽い。あの大きな芋と先程の夕餉、そしてあの団子がどこへ消えたのか、その身体の仕組みを今から確認せねばな」
イタズラな顔は、私のおでこに優しく唇を押し当て褥へと移動する。
褥にゆっくりと降ろされると、私を上から優しく見下ろした。
「今日は理由を聞かんのか?」
指で頬を撫でながら輪郭をなぞると顔が近づいて来て耳元に優しく口づけた。
目元、鼻先、頬へ口づけ唇に軽く触れた時、
「...................っ、...............!」
体の異変に気付いた信長様は動きを止めた。