第10章 月の姫
「どうした?」
振り返り見る顔もまた優しく笑っている。
そんな表情にいつもならドキドキと胸が高鳴るのに、今日はズキズキと痛む。
「あの、このお芋結構大きくて......良かったら、一緒に食べませんか?」
私の言葉に信長様は一瞬大きく目を見開いたけど、すぐに目を細めた。
「ふっ、貴様から何かを誘って来たのは初めてだな」
私はただ、焼けたお芋を一緒に食べようと言っただけなのに、信長様は嬉しそうに笑いながら私の腰に手を回して抱き寄せた。
「あの...........」
「悪いが軍議の最中だ、直ぐに行かねばならん。貴様の無事も確認できたしな。芋は貴様が味わえば良い、俺は代わりにこれをもらう」
「え、どれですか.....っん!」
慣れた手つきで私の顔の輪郭をなぞり顎を掴むと引き寄せられ唇が重なった。
出会った当初は、呼吸を無理やり奪うような荒々しく噛みつかれるような口づけばかりだったけど、
..................いや、まだ抱かれている時はこんな口づけの方が多いけど、不意にされる口づけはとても優しくて、それだけで胸がドキドキと苦しい。
私の唇を舌でなぞると、何度か軽く啄んで離れた。
「っ.................」
「芋に夢中で夕餉に遅れることは許さん。分かったな」
「言われなくても遅れません」
私の口からは可愛げのない言葉が出たのに、信長様はそんな私にふっと笑うと、御殿の中へと入って行った。
私が掃除をしているはずの中庭から煙が上がったから心配して見に来てくれたのかな?
言葉では意地悪なことを言っていても、態度はいつでも優しくて私を守ってくれてる。
「私には、心配してもらう資格なんて無いのに.....」
その後一人で食べた焼き芋は、全く味がしなかった.........。