第10章 月の姫
パチパチと、炎を揺らしながら目の前で落ち葉が燃えている。
蘭丸様から渡された薬を隠し入れた左の袂は、大きな石を入れているかのように重く感じる。
『空良、俺と一緒に顕如様の元へ帰ろう』
いくら勝手知ったるお城とは言え、行方をくらまし続けていた蘭丸様がこの中庭に入り込むのはかなりな危険を冒してのことに違いないのに、
嬉しいとは、お迎えを待っておりましたとは、言えなかった........
「............おい」
「.................」
私は.........
「おい、空良!」
グイッと肩を引かれ驚き見ると、そこには信長様が........
「あ、........信長様....」
「中庭から狼煙かと思えば貴様か。残暑厳しい中もう焚き火か?」
腕組みをしてククッと笑う信長様の姿に何故かほっとした。
「私今お芋を焼いてて、そろそろ食べ頃かも。食べますか?」
何も考えずにお芋を取るため焚き火の中に手を入れようとした時、
「阿保っ!!」
信長様が大声を出しながら、素早く私の手を掴んで止めた。
「?............信長様?」
「何を呆けておる、そのまま素手を炎の中に入れようなど、火傷する気か!?」
私の手首を険しい顔で掴みながら言われ、漸く自分が炎の中から直接お芋を取ろうとしていた事に気付いた。
「あ...............」
本当は、焼き芋なんてもうどうでも良くなっていたけど、どこまでも小狡い私は信長様との思い出が一つでも多く欲しくて焼き芋を焼く事にした。
「空良?」
「あ、.....待ちきれなくて...........」
咄嗟に出た苦しい言い訳だったけれど、
「ふっ、そんなに慌てずとも誰も取りはせん」
信長様は私のその言葉に顔を緩ませながら、細い枝を拾って炎の中を突いてお芋を取り出した。
「中まで火が通っておるようだな。暫く冷ませば食えるだろう。あまりがっついて喉を詰まらせるなよ?」
私の頭をポンポンと撫でながら信長様は行こうとする。
「あっ、信長様待って!」
今行かれては一緒にお芋が食べられなくなってしまうと思い、咄嗟に信長様の袖を掴んで引き留めた。