第10章 月の姫
「雨......本当に止んでる」
朝起きて、廻縁に出る扉を開けると昨夜の雨は上がって綺麗な空が広がっていた。
「止んだな」
信長様も私を後ろから抱きしめながら外を眺めた。
「今日はどこまで掃除に行く予定だ?」
いつも掃除に夢中になって帰りが遅くなる私に信長様は意地悪な質問をする。
「どこまでって、お城の中しか行きません!今日は中庭を掃き掃除するつもりです。知ってますか?お庭の柿の木がまだ青いですか実がなり始めている事」
「ふっ、いや.........柿の木がある事すら知らなんだが、もしや青い実のまま食ったわけではあるまいな?」
またしても意地悪な質問。
「今日食べてみようかと思ってましたが、それを聞いて食べる気がなくなりました」
ツーンと私も負けじと言い返す。
「貴様は食い意地が張っておるからな。だが青柿はやめておけ。毒があるからな」
くくっと、それはそれは楽しそうに信長様は笑って私に軽く口づけた。
「.......朝餉にするか。青柿を食べなくてもいいようにしっかりと腹を満たしておけ」
ちゅ、と最後に私のおでこに唇を押し当てると
くくっと笑いながら信長様は部屋へと入っていった。
「青柿がダメな事くらい知ってます......」
朝から無駄に熱を煽られ私の顔は熟れた柿のように赤くなった。
・・・・・・・・・・
とは言え.......
安土城の中庭はとても広い。と言うか、中庭と呼べる庭がいくつもあり、一日で全てをなんてとても無理な話で、手始めに今日はその中でも一番広い中庭を掃除する為にやって来た。
「とりあえずは掃き掃除からかな」
お庭はその専門の庭師により綺麗に手入れされており、それに関して私の出る幕はない。
だからひたすら落ちている葉っぱを何箇所かに集めていく。
どんどん山のように積み重なっていく落ち葉を見ていたらあることを思いついた。
「......焼き芋.....したいけど、まだお芋の収穫には少し早いよね?」
でも、早い収穫の物だともうそろそろ市の方に入ってきてるのかも....?
目の前には、掃き集められた枯れ葉の山..........
また食い意地が張っていると、信長様に言われてしまいそうだけど、これで焼き芋をするなと言う方が無理でしょう?