第10章 月の姫
「んっ、..........やっ!.....り、理由......は?」
「なに?」
「今宵、私を抱く理由です。私は信長様の命を狙ってませんし、誰にも触れさせてはおりません。もう休戦日でもありません!」
この文言も言い慣れたものだけれど、いつだって私達は、抱き合うのに理由がいるのだから、仕方がない。
「俺の酒を断った罰だ」
「なっ、そんな事で!」
「主人の酒を拒むなど、死罪に値するが許してやる代わりに抱かせろ」
苛立った唇はまたも私の呼吸を奪おうとする。
「ん........それなら........」
死罪にして欲しいと言ったら、あなたは怒る?それとも困る?
「死罪を望むと、貴様は言いたいのであろう?」
思った反応とは違い、唇を少し浮かせると、寂しそうな目が私を見つめる.......
「っ..........」
そんな、寂しそうな目で見ないでほしい.......
私の決意はいつでもグラグラと揺れていて、簡単に崩れてしまいそうで.......
「これほど抱いてもまだ死を望むとは驚きだが、まだ足りぬと言うならいくらでも抱いてやる、大人しく身を委ねていろ」
「やっ!やだっ、信長さまっ、んぅ!」
強引な口づけにクラクラする。
『貴様が俺以外の男を知る日は来ぬ』
それは本当だ。
この先何があっても、私はもう信長様以外の人に触れさせることはないし、他の誰かを愛する事はない。
毎晩のように身体に刻まれる熱を思い出に、私はこれからを一人で生きていける。
「ふんっ、嫌だと言う割にここはもうこんなにも濡らして.......。強情にも程がある」
裾を割って下へと伸ばされた手は無遠慮に秘部へと挿れられる。
「やぁっ、ぁ、...........ん、......」
「空良、貴様が何と言おうと貴様は俺のものだ、その心もいずれは俺のものにする。貴様を抱くのはこの先もずっと俺だけだと覚えておけ!」
「あっ、やっ!..........っん、あぁっ!」
嫌だとどれほど口で言っても身体は正直に信長様を求めてしまう。
でも私達のこの関係に未来はない。
それでも、妻にと言ってくれて心が震えてしまう自分はなんて愚かな女なのか.....
結局この夜も信長様の熱を受け止め、溶けるように眠りに落ちた。