第10章 月の姫
「ん、.........」
重なった唇は苛ついている。本当に、分かりやすい人。
「貴様が他の男になど....俺にそんなことを言わせるな」
「........ん、わ、私は、現実をお伝えしてるだけです。......んっ、........っ、信長様の一時の戯れに付き合う気はありません」
分かりやすい人だからこそ怖い。
新しいものや珍しいものが好きだという信長様が私を好きだと思ってくれているのは、私が文字通りに珍しい存在だからで........
それに慣れて、その想いが薄れていく日が来ることを目の当たりにすることが、とても怖い.......
「貴様が欲しいと、愛していると言っておる。貴様はいずれ俺の妻となり、その身も心も俺のものとなる。それが現実だ」
「ん........くるしっ.......」
怒りを含んだ口づけが苦しい......
私を妻にって、本気で.........言ってるの?
これだけ毎日一緒にいれば、信長様がどれほど偉くて天下人に近い方なのかは嫌でも分かる。本来であれば、お姿を拝見することも叶わない程に私たちの身分は違いすぎていて、妻はおろか、妾となったとしても、城内に部屋を賜る事は難しいだろう。
「っ、..........」
唇が離れると、ツーっと銀糸が伸び、信長様はそれをペロっと舌で舐めとる。
「今宵は寝かせてやろうと思ったが、分からずやな女にはまだ足りぬと見える」
拗ねた顔で私を抱き上げると褥の方へと歩き出す。
こんな所がたまらなく愛おしくて、胸が騒がしくなる。
口づけを教え、男女の営みの全てを教え、私を女にした男は、決して愛してはいけない人だ。
「っ、降ろして下さい!あなたは私にとって両親の仇です。結ばれる事は永遠にありません」
「うるさい、いい加減に黙れ!」
拗ねた顔は機嫌の悪い顔へと変わり、私を褥に降ろし押し倒すと、帯を解く事なく乱暴に袷を開く。