第10章 月の姫
顔を見ても、いつも通りのしれっとした顔で、何を考えているのかは読めない。
でもここで言い返せばまた信長様の思うつぼ。
「信長様のお命を頂いた暁には、晴れて自由の身となりこの城を出て、許婚の元に戻り祝言を挙げ、お酒を嗜みたいと思います」
あの花火の夜以来、毎夜の如く休戦日だ、強情を封印しろとか言っては散々好き勝手に抱かれて寝させてもらえない夜が続いたんだもの(私にとっては一生に一度の夜だったのに)..........
何か困らせるような仕返しをしてやりたかった私はにっこりとわざとらしく微笑んで言い返した。
なのに、
「.......笑ったな」
予想だにしない言葉を言われ、驚く間もなく信長様の手が私の頬に触れた。
「っ..................」
私の心の臓は大きく跳ねて、途端に平常心が揺らぐ。
「もう一度笑え」
私の頬を指でスリスリと撫でながら信長様は楽しそうに言う。
「わ、笑ってなどいません」
「それでも構わん、笑え」
ムニムニと、私の頬を軽く摘んでは持ち上げて来る。
「や、やめて下さい!笑えと言われても、笑う理由がありません」
顔を強く左右に振って信長様の手を振り払った。
「お酒、お注ぎします。どうぞ」
話を変えようと思いお銚子を信長様の盃の方へ傾けた。
「ふんっ、飲む気がなくなった」
すねた様に言うと、信長様はドンっと盃を強く膳に置いた。
「じゃあ飲まないんですね」
私もドンっと強くお銚子を膳に置く。
「貴様が飲むなら飲んでやってもいい」
「は?子供ですか!?......先ほども申し上げましたが、私がお酒を飲むのは一生を添い遂げる約束をした殿方とだけです!信長様とは飲みません!」
「だからそれは、俺だと言っておる」
「ち、違います!」
「違わん!貴様が俺以外の男を知る日は来ぬ」
手を私の頭の後ろに入れ強引に引き寄せると唇を奪われた。