第9章 休戦日
「.......あの、ここは?」
湖を見て楽しむにはもう暗い。
「今からすぐそこの湖岸で花火が打ち上がる。間近で貴様に見せてやりたいと思ってな」
「花火?」
そう言えば、花火が打ち上がるって小夜ちゃんも言ってた。
「見た事はあるか?」
「いいえ、とても大きな光が夜空に浮かび上がるとは聞いたことがありますが、見た事はありません」
「そうか.......。天主から見るのもいいが、真下で打ち上がる花火を観るのもなかなか見応えがある」
「そうなんですね。.........あ、お酒お注ぎします」
「ん、」
気がつけば、辺りは既に真っ暗で..............
行燈の灯りだけを頼りに、脇息にもたれた信長様にお酒を注いだ。
信長様の為にしつらえられたこの観覧席。
先程見てきた城下も活気に溢れ、民は活き活きとしていて皆信長様に感謝しているように見えた。
残忍で冷酷無比と聞いていた男は、知れば知るほど大きくて温かい人で......、私はその偉大さに日々驚かされるばかりだ。
「どうした、久しぶりの外は疲れたか?」
無言で空になった盃にお酒を注ぐ私の頬に手を当てた時、
ヒューーーーーーー
と夜空に一筋の火の光が登っていき、
ドーーーーーーンと大きな音を響かせながら大輪の花を咲かせた。
「わぁっ!」
大輪の花はやがてバラバラと音を立てて消えてゆく。
そしてまた、新しい火の筋が夜空へと昇り、ドーーーーーーンと辺り一面を明るく照らし出した。
「.........きれい..........」
そこから暫くは、花火の織りなす光の美しさと迫力に目を奪われた。