第9章 休戦日
城下の通りを抜けた先には光秀さんが馬を引いて待っていた。
「御館様、準備が整いました」
手に引く黒馬を信長様に引き渡しながら、光秀さんは頭を下げた。
「光秀、遠方より戻ったばかりで無理を言ったな」
「いえ、この道を真っ直ぐ湖に出れば技師が立っており、案内致しますので」
「分かった。貴様も今日はゆっくり休め」
「はっ、ありがたきお言葉」
そんな二人のやりとりをじーっと見ていると、頭を上げた光秀さんと目があった。
「掃除を頑張った甲斐があったな。楽しんでこい」
相変わらず何を考えてるのか読めないけど、初めて会った時とは明らかに違う優しい表情で光秀さんは言った。
「はい。ありがとうございます」
今からどこへ行くのかは分からなかったけど、きっと私達のために何かをしてくれたのだと思いお礼を言って頭を下げた。
「空良」
名前を呼ばれ振り返れば信長様は馬に跨って私に手を差し伸べる。
その手を取ると力強く引き上げられ、信長様の前に乗せられた。
「貴様をこの馬に乗せるのは二度目だな」
「え?」
「覚えておらんか。気を失っておったからな」
「あ......」
あの本能寺の夜の事だ。
「あの日、貴様を連れ帰って正解だったな」
私の耳に口づけるように言うと、片手で手綱を握り、私の腰を抱いて馬をゆっくりと走らせた。
・・・・・・・・・・
信長様に抱きしめられるように馬に揺られてついた先は湖で、馬から降ろされ待っていた男の人について行くと、浜辺の上に小さな宴席がしつらえてあった。
既に薄暗くなり始めたその場所には行燈も灯され、お酒の乗った膳も置かれてある。
「ここまでで良い、下がれ」
信長様がそう言うと男は「間も無く打ち上がります」と言いながら去って行った。
「貴様も座れ」
信長様は草履を脱いで敷かれたゴザに腰を下ろした。