第9章 休戦日
「もうお腹いっぱいです」
少しぽこっとしたお腹をさすりながら私は信長様に満腹を訴える。
「ふっ、出された物全てを平らげるからだ」
「だって、どれもあまり食べたことがなくて美味しそうで、それにせっかくどうぞと言ってくださるのにお断りするのも......」
「だからと言って俺の分まで食うやつがあるか。その小さな顔の半分が口かと思うほどの大口で平らげる姫など珍しいと、皆も驚いておったぞ」
ツンッと私のお腹を指で軽く突いて信長様は笑う。
「ど、どうせ私は奥ゆかしくありませんから!本当の姫でもありませんし、恥ずかしいなら離れて歩いて下さい!」
少し怒ったように手を離して信長様の胸を押すと、
「いや、そんな貴様も気に入っておる。俺だけの愛しい姫だ。絶対に離さん」
信長様は、すぐに手を繋ぎ直す。
私は、ずるい..........
こんな言葉を言って信長様から離れようとすれば、信長様は必ず甘い言葉で私を抱き寄せる。
「っ、........」
それを分かっていて、抱きしめられる事を心待ちにしている自分は何てあさましく卑怯な女なんだろう。
自分からは決して思いを打ち明けず、天邪鬼な態度を繰り返しながらも、信長様の態度や言葉を欲しがってる。
私のこの最低な心の内を知ったら、あなたは私を嫌いになるだろうか?
繋がれた大きな手を離さないといけない日が来る事は分かっているけど、その温もりを少しでも長く感じていたくて、気づかれないように少しだけ指先に力を入れて、強く握り返した。