第9章 休戦日
「.........あの、信長様......痛いです」
「貴様が離そうとするからだ」
振り返り私を見る顔は拗ねている。
「だって、このままだと町の人に誤解されてしまいます」
「何をだ?」
「何をって.........」
恋仲だと誤解されてしまうのは、私よりも、信長様の為にならないんじゃ......
「どうせまた、つまらんことを気にしておるんだろうが、この前の様なことが起きぬ様、貴様が俺の女だと皆に知らせておくにはちょうどいい。もっとくっついて歩け」
繋いだ手の腕まで巻きつける様に、信長様は体をぴたりと寄り添わせる。
そしてそんな行動を一つとるたびに、周りの人々からは、「おぉ〜」と歓声が上がった。
町の人々の反応や声に慣れて来た頃、ある露店に目を奪われた。
私のちょっとのよそ見にも敏感な信長様はすかさず歩みを止める。
「何だ、欲しい物でもあるのか?」
「いえ......でも、少し見てもいいですか?」
色取り取りの布や焼き物、彫り物で作られた髪飾りや帯飾りなどの小物類が並べられた露店はとても可愛らしくて、つい手に取って見たくなった。
「かまわん、貴様の好きに動け」
これだけがっちり手も腕も絡められて、好きに動けも何もとは思ったけど、目の前に広げられた可愛い小物達の誘惑には勝てず、
「可愛い」
小袖の柄と同じ撫子の花を布で模した髪飾りを一つ手に取った。
(こんなに小さいのに細工が細かい。どうやって縫いまとめてるのかな)
小さな国を治める領主とその家族は、いつだって天候や戦に左右される生活を強いられて来た。日照りが続けば作物は枯れるし、台風に襲われれば米は不作となる。戦になれば男達は借り出され、女子どもだけでその土地を守らなければならない。だからこそ、少しでも生活の足しとなる様に、母上や私たちも着物や小物を作っては売り、生活の足しになる様にして来た。
そんな小物作りをして来た私にとって、目の前に広げられた小物類はとても興味深くて、どうしても目を奪われてしまう。