第9章 休戦日
私の生まれ育った越前は朝倉様のお膝元で、京の文化が多く取り入れられておりとても栄えていたけど、私の父が治めていた土地は田畑の広がる山奥の領地だった為、母や父に連れられ何回かしか城下には行ったことがない。
最後に一乗谷の城下へ行ったのは、今回と同じ様にお祭りがあったからで...........、許婚の方に誘われて二人で初めて逢瀬に出かけた。
あの日も、許婚の方が優しく握る様に手を繋いでくれた事を、今目の前で指を絡ませて繋がれる自分の手を見ながら思い出した。
あの時も緊張したけど、相手も緊張していて、いずれは夫婦になろうと言う私たちは、今思えばとても清い付き合いを重ねていた。
今私の手を繋ぐこの手は大きくてゴツゴツと男らしくて......そしてこの手に守られている気がしてとても安心する。
私はずっと、優しく穏やかな殿方が好きだと思っていたけど、この大きな手の、強引で子供っぽくて、だけど優しい男にどうしようもなく惹かれている。
「大人しいな、どうした」
声をかけられ顔を上げればお城からかなり歩いていて.............、信長様に手を繋がれながら見たお城の外の世界は、想像以上に大きくて広くて賑わっていた。
「すごい........異国の様」
道幅も広く、左右には見た事もない品々を扱う露店が立ち並んでいる。
(わっ!本当に異国の人まで歩いてる)
一乗谷の城下も賑わっていたけど、比べ物にならないほどの活気と人々の数。
今夜はお祭りという事もあってか、軒下には提灯もぶら下がり、町全体が色づいていた。
賑わいを見せる仲見世通りを歩いていくと、町中の人々が振り返り頭を下げていく。
天主の中での信長様しか知らない私にとってそれはとても新鮮な光景で、私が今までどれ程失礼な態度を取って来ていて、それを信長様が自然と受け止めてくれていたかがよく分かった。
そして時折聞こえて来る「天主の姫様」と言う言葉.......
それはもしかしたら私のことを言われているのではと思い、誤解をされない様に繋がれた手を離そうと試みたけど、信長様が腕ごと引き寄せる様に更に指に力を入れて絡めた為、余計に人々の視線を集める結果となった。