第1章 本能寺の変
目を閉じて、訪れるであろう痛みを覚悟した時、バシっと刀が弾かれた。
「あ............」
カシャーンと遠くに飛ばされた脇差しは、...クルクルクルっと、何回か床の上で回転して止まった。
「............ならぬ!」
「えっ..........?」
「死ぬ事は許さん!死ぬなら、俺の命を見事散らしてから死ね!」
「何を...言って............」
私の家族の命を奪った男が、私が命を断つことを止めると言うの?
「空良、俺と賭けをしろ」
「.........賭け?」
「そうだ。貴様はこの先この城に身を置き、好きなだけ俺の命を狙うがいい」
「何言って...........」
「貴様が俺を殺せたら、無論賭けは貴様の勝ちだ。その時は、自害するなり逃げるなり好きにしろ。.....だが俺を殺し損ねた時は」
「.....殺し...損ねた...時は....?」
「その都度貴様を抱く」
「なっ...........!」
「俺に刃を向けた女は貴様が初めてだ。口付けて噛み付いた女もな。死なすには惜しい。俄然欲しくなった。貴様を俺のものにしたい」
獰猛な目に、情欲な色が宿る。
「待っ....」
「待たぬ、....今宵の勝負、俺の舌を噛みきれなかった貴様の負けだ。俺に貴様を寄越せ」
「あっ!」
ドサッと、身体は再び褥に倒された。
「っ、待って、私.....まだ勝負をするとは言ってない!」
自分の命と引き換えにしてるのに、何でこの人はこんなにも楽しそうなの!?
「何だ、勝手に俺を殺そうとしておいて、失敗したらただ逃げるのか?貴様にとって親の仇とはそんなものか」
「そ、そんな事は.........」
「ふっ、ならばこの賭けに乗ると言う事だな。俺は命を賭けるんだ、貴様からもそれ相応のものを貰う」
不敵な笑みを浮かべると、袷を乱暴に開かれ、熱い唇を胸元に感じた。
「っ、...........」
仇討ちと、死ぬ事しか考えて来なかった私に殿方との経験は勿論ない。
これから殿方に、しかも憎い相手に抱かれると思うと恐怖で身体が震える....
「空良貴様............まだ、男を知らんのか?」
信長の目が意外そうに震える私を見下ろした。