第1章 本能寺の変
(な、何?)
人の唇の感触と、舌?
「んんっ!んーーーーんーー」
いや、何するの?
身を捩り抵抗すると、簡単に唇が離れた。
「貴様、死ぬつもりか.....?」
冷たい目に少し焦りを滲ませ、信長が私を見た。
「死ぬつもりかと、...あなたが私に聞くの?」
あなたが私の家族の命を奪った時から、この命はとっくに捨てている。
「私が今生きているのはあなたの命を奪い家族の無念を晴らす為。私の背後には誰もいない。拷問するだけ無駄な事。殺すなら早く殺して!」
「......なる程......貴様の覚悟は分かった」
信長は私の首から手を離し、顎を掴んだ。
「んっ.............!」
また口を塞がれた。
「親の仇である俺から口づけられるなど不本意であろう。嫌なら、俺の舌を噛みちぎってみせよ」
少しだけ唇を浮かせて信長は挑戦的な言葉を述べる。
「っ............」
(そんな事.....)
「どうした、俺を殺りたいなら何も考えずに殺れ!」
彼の唇が再び重なった。
「んっ、やめてっ、ん............いやっ!」
舌を入れられる前に、ガリっと、信長の唇に噛みついた。
「つっ.....!」
信長は唇を離し、私を睨み見た。
「貴様.........」
信長の唇からつーっと血が流れ、それを信長はニヤリと楽しそうに舐め取った。
「あ、.........」
血が............
思い出したくない、嫌な記憶が呼び覚まされる。
『姫様!お逃げください!ここにも敵が、ぎゃあ』
『姫様早く!きゃあー』
たくさんの血が....流れる.....
「うっ.......あぁ、」
みんな、みんな....死んでしまった。
私を、私一人を残して........
「おい、空良!」
信長が、私の名を呼びながら体を揺するけど、その声は届かない。
「やっ、行かないで.....置いてかないで....私も連れて行って.....」
一人は寂しい、復讐も本当は怖い。
私は......みんなの元に行きたいだけなのに.....
ちらりと見えた信長の脇差に手を伸ばし引き抜いた。
「空良っ!」
「母上、私もお側に.....」
目を閉じて脇差を首筋に当てた。