第9章 休戦日
「可愛い......」
渡された小袖は、青緑と白を基調に赤と薄桃色の撫子の花が散りばめられていてとても可愛らしく、二色使いの帯にも信長様のこだわりが感じられた。
着替え終わり、髪を半分だけ結い上げ、一度も開けたことのない信長様から贈られた化粧箱を開けた。
「わぁ........」
見た事もない化粧やその道具の数々に、やはり気後れしてしまう。
信長様のお側に侍る姫君たちはきっと、こんな素敵な化粧道具を使いこなす、美しく高貴な方々ばかりなのだろう。
信長様の前で一度も化粧はしてこなかったけど、これだけ一つ、今夜は使ってもいいかな。
数ある化粧の中から小さな陶器に入った紅を手に取り、唇へと塗った。
「...............支度できました」
連れてこられた日から裸を見られた私に、信長様の前で恥じらうものなんてもう何もないと思っていたけど、何故か見られるのが恥ずかしくて、襖を少ししか開けられなかった。
「..........ふっ、どうした、今からかくれんぼでもする気か?」
文机で書簡に目を通していた信長様は私を見て優しく目を細め、立ち上がった。
「あの........」
襖を開けようとする信長様に対し、私も襖を持つ手にぐっと力を入れて、開けられない様に抵抗をした。
「!.......貴様、どう言うつもりだ?」
怪訝そうに更に襖に力を入れて開けようとする信長様。
「だ、だって.........」
私も更に踏ん張り開けられない様に抵抗した。
紅なんて、ささなければよかった。
まるで逢瀬を楽しみにしている女の様で、そんな浮足だった心を知られてしまうのが恥ずかしくて....見られたくない。
「無駄な抵抗を」
「あっ!」
力に敵うはずもなく、呆気なく襖は開けられ腰を引き寄せられた。
「貴様の行動はいつも読めん。襖の開け閉め一つでこんなに焦らされたのは初めてだ」
「別に焦らしているわけじゃ.......」
ただ恥ずかしくて目を合わせられないだけで......
「まぁいい。よく見せろ」
少し身体を離して信長様は私を上から下までゆっくりと眺める様に見た。