第9章 休戦日
「空良」
「何ですか!!...わっ、ぷ!」
不機嫌に振り返れば何かが顔に押し当てられた。
「やめて下さい!何なんですか一体!!」
押し当てられた布の様なものを手で取り除き見ると、
「...........これ...は?」
それは薄手の絹で作られた小袖。
「今すぐそれに着替えろ」
「えっ?」
何で?
「今夜は城下で祭りがあるそうだ。連れてってやる」
「お祭り?」
さっき小夜ちゃんが言ってたお祭り?
でも......
「どうした、行きたくないのか?」
「..................」
行きたい........けど、私が何かを楽しむことは間違ってる。
「空良、その硬い頭を時には柔軟にしろ」
考え込む私の頬に、信長様は優しく手を添えた。
「..........柔軟に?」
「そうだ。どんな戦であれ、夜になれば兵は休みとるし、長引く時にはお互いに休戦の申し入れをし鋭気を養う時もある」
「それは........」
「今宵一晩くらい、頭の中にある復讐心を休ませてもバチはあたらん」
「.................」
それを、私が望んでもいいの?
「今宵俺は、ただの織田信長という男で、貴様は俺の愛するただの空良と言う女だ。それならば問題はなかろう?」
「....................」
その問いに、どう答えろと言うのか?
ただの、男と女として.......
それは、私達が一番望んではいけない関係で......
「貴様はいつもだんまりだな。行きたくないのならいいが..........休戦日は今日しか無いやもしれんぞ?」
痺れをきらせた信長様は私の頬から手を離し、呆れた表情を浮かべた。
「えっ、いっ、行きたい!行きたいです!!」
それに焦った私は我慢できず、ついに本音を口にした。
だって、お祭りなんてもう長いこと行っていない。
本当は、すごく行きたい。
「ふっ、ならば早くそれに着替えてこい」
くくっと愉快に笑う信長様の声を聞きながら、私は隣の部屋に入り襖を閉めた。