第9章 休戦日
「遅い!」
遅くなった自覚はあれども、襖にもたれ掛かり私を睨むように見る魔王は、予想以上に機嫌が悪そうだ。
「そんなに遅かったですか?」
口づけられないように距離を保ちつつも、私はゆっくりと魔王に近づく。
「遅い!城の中にいて、どうしてこうも遅くなれる?」
「反対に.....お城の中に必ずいるわけですからそんなに怒らなくても.......と言うか、なぜいつも待ってるんですか?」
軍議が早く終わった日や視察で早く戻った日は必ず待ち伏せされている。
「あ!もしかして、お腹.....空いてるんですか.....?」
子供っぽい所があるから、それで機嫌が悪いのかも。
どうなんだろう?
少し近づいて様子を伺うと、
「....そうだな、腹は減っておる」
魔王は不機嫌な顔のまま私を腕の中に閉じ込めた。
「それなら、直ぐに夕餉の支度をしますね?」
やっぱりお腹が空いてたんだと思い、そっと信長様の胸を押した。
「阿呆、その腹は減っておらん」
魔王は更にご機嫌斜めになり私を抱きしめ返す。
「?..........では、どのお腹が空いたのですか?」
胃袋がいくつもあるわけじゃなし、不思議に思って信長様を見上げた。
「貴様が足りんと、俺の身体が腹を空かせておる」
見上げた私の顔の輪郭をすりすりと指でなぞりながら、信長様はニヤリと口角を上げた。
「..................は?」
あまりにも物欲的な物言いに顔が一気に熱くなった。
「貴様を.....今すぐに食べさせろ」
顔の輪郭をなぞっていた指に顎を持ち上げられた。
(っ......口づけられる!?)
きゅっと、目を瞑って唇が重なるのを待った。
・・・・・・・・・あれ?
とっくに重なっているはずの唇の感触は未だなく、不思議に思って目をそーっと開けてみる。
「......っ!」
目の前には、ニヤリと楽しそうに笑う魔王の顔。
「急に目を閉じてどうした?」
「!!!!!!!!!?」
からかわれたっ!?
「なっ、何でもありません!」
信長様の笑う声を耳にしながら、期待してしまった自分の恥ずかしさと、からかわれた悔しさが相まって、顔が沸騰しそうなほどに熱くなり、信長様からぷいっと顔を逸らした。