第9章 休戦日
「ふぅ〜、これでいいかな?」
お城の客間にある板の間を拭き終え、立ち上がって部屋を見渡す。
「..............うん、綺麗になった」
元々手入れもされていて綺麗な城内だけど、掃除は一度ハマるととても楽しくて、塵一つとして見逃したくない。隅々まで磨き上げる快感を最近知ってしまった私は、誰に頼まれるでもなく、お城中の気になる箇所を磨きまくっていた。
「あ.............」
目についたのは棚の上に置かれた花瓶....
献上品で大切な物だからお花などは植えられておらずただ飾られている。
「あの中、埃溜まってそう......」
気になりだすともう覗かずにはいられない。
でも、そろそろ戻らないと信長様に怒られる気もしている。
「うーん.......」
やっぱり気になる!
足をその花瓶へと向けようとした時、
「空良?まだ掃除してるの?」
最近仲良くなった同じ女中仲間の小夜ちゃんが廊下から声をかけてくれた。
「小夜ちゃん。.....うん。終わろうと思ったんだけどあの花瓶が気になっちゃって.......」
今も、埃が溜まっているかもと思うと、取り除きたくてうずうずしてくる。
「また空良の気になる病だ......おかげで私たち女中は助かってるけど、あまり遅くなるとまた信長様に叱られるよ?それに今夜は城下でお祭りがあるから、早く戻って支度したほうがいいんじゃない?」
「............お祭り?」
きょとんとした私に小夜ちゃんは話を続ける。
「そうだよ。毎年この夏祭りは安土城下中に夜店が出て、湖からは花火が上がるの。旦那様や恋仲の人がいる人たちは皆とっくに仕事を終わらせて支度しに戻ったよ」
「そうなんだ........。小夜ちゃんも....恋仲の人がいるの?」
「うん。最近やっと思いが通じた人と今日は約束してるからもう帰らないと」
頬を赤く染め、はにかみながら小夜ちゃんは言う。
小夜ちゃんは、このお城の中で皆が私を好奇の目で見ているだけの中、『ね、ね、私小夜っていうの。あなたの事空良って呼んでもいい?』と言って、最初から普通に接してくれた元気で可愛い女の子。