第9章 休戦日
「そう言えば、その勘違い娘は何処へ?姿が見えませんが.....」
「奴なら、勝手に女中に扮して城中を磨いておる」
結局、一度許した城内の行動の自由を取り上げることはできなかった。
「くくっ、どおりで.....久しぶりに城に戻りましたが、どこもかしこも隅々まで綺麗に磨かれて、違う城かと思いました」
(城内の雰囲気もかなり柔らかくなった)
「ふんっ、大人しくこの部屋で貝合わせでもしておればいいものを、自由を与えた途端これだ、中々な跳ねっ返りで目が離せん」
「そのようですね........あと、もう一件お耳に入れたき儀がございまして」
「何だ?」
「先程城下の者に聞いたのですが、今夜は城下で祭りがあり、湖では花火が上がるそうですよ」
光秀はそう言うと、意味深に口の端を吊り上げて部屋を出ていった。
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「朝倉であったか..........」
光秀が去った後、俺はしばらく今までの考えを巡らせた。
朝倉は、金ヶ崎の戦で俺を瀬戸際まで追い込んだ懐かしい男の名だ。
その男の元に仕えていたのが空良の父親か.....
金ヶ崎の戦いでは、会っていたのやも知れん。
あんな心根の綺麗な娘と、天女かと見まごう程の女を妻に持つ男とは、一体どんな男であったのか.......
空良の話や育ち方から見ても、真っ直ぐな男であったろうに、突然夜襲を受ける程のどんな恨みを買ったと言うのか.....
真実がどうであれ、俺はもう空良を手放せない。
それにこれ以上空良に人を恨ませたくはない。綺麗な奴の心を濁らせるくらいなら、俺だと思わせておく方がいい。
だがもう遠慮はしない。
奴の裏で糸を引く黒幕を見つけ出し、空良の洗脳を解いた暁には、奴を誰よりも愛して甘やかして幸せにしてやりたい。
強くて儚く、気高く脆い.....誰よりも美しく愛おしい女。
女とは、かようにも愛らしく守ってやりたいと思う生き物であったとは......
奴の存在全てが俺を捕らえて離さない。
それでも、もし違う出会い方をしていたら、貴様は俺に笑いかけ、愛を囁いてくれたのだろうか?
空良........