第9章 休戦日
「恐らく、侍女に託し逃したものと思われますが、まだその逃れた先が掴めませんので、本能寺の一件以来行方をくらませている蘭丸と、蘭丸との関係も含め引き続き探りを入れております」
「分かった。良くここまで調べたな。また何か掴み次第報告しろ」
「はっ、ですがこれで、 空良の御館様への復讐心は間違っていた事を伝えられますね?...........そもそも何故空良は、御館様が仇だと思い込んでいるのかが不思議ですが....」
確かにそうだ。
尾張の小国であった頃なら、謀反を起こしそうな家臣の館を攻めて、一家もろとも命を奪ったこともあったが、この安土で天下布武を唱えてからは、その様な些細な事は少し脅しをかければ簡単に謀反の芽を摘むことができた。
しかも大名でもない小国を任された領主の命など、俺が狙うわけもないが.......
「おそらく、空良の背後にいる者、俺に恨みを持つ者に、親を殺された復讐心を利用されておるのだろう。小国の領主とは言え、その土地の姫として大切に育てられた空良には、そんな事は分からんだろうからな」
何も知らなかった空良を洗脳する事などいとも容易かろう。
「空良には全てが明らかになるまでこのまま俺を恨ませておく」
「ですが、それでは御館様が....」
「ふっ、教えた所で何も変わらん。朝倉の配下であったのなら、いずれは俺と戦い滅びていたやも知れん。此度の事は、たまたま俺ではなかっただけだ」
それに、何となく分かっていた。
空良は、俺が奴の親を殺すのを直接見たわけではないと言っていたし、空良との話を手繰り寄せても繋がる記憶が俺の中にはなかった。
「まぁいい。光秀、良い知らせを持ってきてくれた。これで遠慮なく空良をこの腕に抱ける」
「くくっ、御館様でも遠慮する事があったのですか?」
「ふんっ、少しだけ自制しておっただけだ」
己の勝手な気持ちを押し付けて、奴を傷つけたからな。
だがその自制も終わりだ。(奴が聞いたらどこがと怒りそうだが)