第9章 休戦日
「空良の身元が割れました」
夕刻前、光秀が知らせを手に遠方より戻ってきた。
「でかした光秀、話を聞く入れ」
「はっ!」
幸い空良がまだ天主に戻っていない為、直接ここで聞くことにし、光秀を部屋に入れた。
「して空良は何者であった?」
「空良は、越前国朝倉に仕えた小国の領主の娘でした」
「朝倉か.......、朝倉の下にいた者となると、一乗谷城の戦いで命を落としたと言うことか?」
あの合戦では確かに、一乗谷の城下を襲撃し焼き払ったが、俺が直接陣から離れ夜襲をかけた覚えはない。
「いえ、それが....空良の父は先の朝倉との合戦で命を落としたのではなく、合戦より前に何者かの夜襲を受けたものとみられます」
その”何者か”が俺だと空良は言っていたが、合戦より以前にかの地を踏んだ覚えは俺にはない。
「夜襲により領主である父は討ち死に、屋敷もその日のうちに焼き払われております」
「この乱世ではどこにでも有りそうな話だな。母や兄弟もその時に命を落としたで間違いはないな?」
「空良の母は自害し、空良も同じくその場で命を絶った事になっております。また兄が一人おりましたが行方が分かっておりません」
「兄の方はどこかに逃げ落ちたか、途中で命尽きたかだな。だがなぜ、空良が死んだ事になっておる?」
「それについてはまだ.....。今はこの地も織田の領地となっておりますので、織田と同盟を結んだ者が治めておりますが、空良一家のこの夜襲事件は地元の民の間でも悲劇として語られておりました」
「朝倉のげきに触れるような事をしたか.....」
「地元の者でも、誰に襲われたかは未だ分からないそうです。どうもこの悲劇の裏には、何か空良一家への個人的な恨みが見え隠れしているのではと....。空良を逃がしその後も安全に生かすため、身代わりを立てたのではないでしょうか?」
「なる程....」
この時代、夜襲をかけられた家は家族もろとも殺されるだけではなく、女達は慰み者にされる事が多い。だからこそ、辱めを受ける前に女どもは自ら命を断つ事が多いが、空良の母親は身代わりを立ててでも空良を生かしたかった。