【名探偵コナン】Redo*misty【降谷/ 赤井/ジン】
第10章 零の奪還
降谷の耳には確かに届いていた。
聞き馴染んだ声だとしても、零と、自身の名前を呼ぶ優しい音はひどく懐かしい。
都合の良い夢だろうかと、淀む意識を必死に手繰り寄せる。
『零、愛してるよ』
ぎゅっと首元に縋る腕は、温かくて心地好く、生々しさが色濃い。
これは現実だと、重い瞼をもたげた。
『零…』
「…」
『うん』
「…おかえり」
『うん、ただいま』
目の前にいるは、自身の良く知るだと、名前を呼ぶ声で分かってしまう。
そして、くしゃりと笑むと、抱き締められる腕に頬を刷り寄せた。
「そこまでに…」
場の空気を壊す声に、降谷はその主を視線で追った。
自身を襲撃したのちに、拉致をした男がいる。
「お前は…」
『零、おそらく彼は…』
男は小さく息を吐くと、胸元からピンと小さなビニール袋を取り出した。
「解毒剤です。どうぞ」
が手渡されたものを確認すると、圧縮されたビニールにラベルなどはなく、中身は透明な液体の入った硝子製の容器だった。
「…何者だ」
男は言うなり、降谷の問いに答えるもなく器用にピンを用いて拘束を解き始めた。
黒澤陣を保護のち、自国へ移送する事が男の組織としての任務で、保護を装い自国海域にて身柄拘束こそが、男の特务としての本来の任務だ。
それを二人に伝える必要性はない。
全ての拘束を解き終えた男は、薬品を手にしたまま訝しむを見る。
「飲ませないのですか」
降谷の拘束は解かれた。
けれど男が信用に値するのかは別の話だと、は逡巡する。
男はの様子を考慮し、解毒剤を取ると1/3ほど口にした。
「どうぞ」
涼しい顔で液体を口にした男に動揺は見られない。
解毒剤は降谷に手渡され、受けとると躊躇いなく飲み干した。
「潔いですね」
「どうも」
『効果はどれくらい…』
聞くまでもなく、変化は如実に現れていた。
「…即効性…だな…」
忌々しいほどに身体を蝕んでいた熱は嘘のように引き始め、安堵から降谷は大きく息を吐いた。