【名探偵コナン】Redo*misty【降谷/ 赤井/ジン】
第10章 零の奪還
少女は人目を避けるように、あてもなく仄暗い裏路地を歩いていた。
顔さえ知らない父親と、見知らぬ男を次々と連れ込む母親、それが少女の家族だった。
その日は母親の留守中に訪れた男に襲われ、必死の思いで家から逃げ出した。
服はところどころ破けて、右頬は赤く腫れていた。
細い裏路地に停まった1台の車が目についた。
古そうだけれどピカピカに磨かれた純黒の車。
エンブレムのマークに書かれた文字を見る。
『…ぽー…ちぇ?』
「惜しいが違うな」
少女は突然背後からかけられた声に振り返った。
『なんて読むの?』
「Porsche」
『Porsche?』
少女は男の言葉を復唱した。
「発音はいいじゃねぇか」
『…ありがとう。この車はおじさんのなの?』
「だったら何だ?」
『いいな…、これに乗れれば遠くに行けるでしょ』
男はほんの気まぐれだった。
「遠くに行きてぇのか?」
『…うん。私のことを知ってる人がいないところに行きたい』
見るからに訳ありな少女を、救う気もなければ同情心など微塵もない。
「着いてくるか」
少女は男を真っ直ぐに見つめた。
あの家から連れ出してくれるなら何でも良かった。
『おじさんの名前は?』
「おじさんじゃねぇ、陣だ」
『陣さん、私は。着いていってもいい?』
男は否定も肯定もなく、助手席の扉を開けた。
それがとジンの出会いだった。