【名探偵コナン】Redo*misty【降谷/ 赤井/ジン】
第10章 零の奪還
押し寄せる感情にのまれひとしきり泣いたあと、は降谷の腕の中で眠りについた。
しばらくすると、制服を着た青年と博士がお決まりの花を手に病室を訪れた。
志保が一部始終を説明をすると3人は足早に病室を後にした。
を起こさないように降谷はそっとベッドに寝かせる。
陽はすっかり傾き、空いたままの窓からそよぐ風は少しひんやりとしたものになった。
窓を閉めながら物思いに更ける。
待ち望んでいた半年ぶりの再会は、あっという間に終わってしまった。
伝えたいことは、記憶のない彼女には伝えることは出来ず、すっかり行き場をなくしてしまったポケットの小さな箱を取り出した。
仕事の合間に作りに行った、なんともとんちの効いた結婚指輪だった。
ほんの出来心だった。
降谷は箱からリングを取り出すと、の左手薬指と自身の指にもはめてみる。
の手を握り、その指輪を眺めながら、ベッドに頭をのせた。
昨夜も仕事に追われ睡眠時間を取り損ねた降谷はうとうとと、次第に瞼は重くなっていった。
先に目が覚めたのはだった。
ベッドに突っ伏すように寝ている降谷に気づいた。
窓の外から差し込むまあるい月の光は、降谷の髪をキラキラと照らしている。
は降谷にブランケットを掛けた。
(え?)
月の光は左手薬指をきらめかせた。
手を広げてみると見覚えのないシルバーリングがはめられている。
(指輪…してなかったよね?)
そっと指輪を外してみると内側に刻まれた文字に気がつく。
月明かりに目を凝らすとそれはかろうじて読み取れた。
(….zero…?)
reiとオーダーしたつもりが零と漢字表記のまま伝わり、zeroと刻印されてしまうという奇しくも小さな勘違いが招いたシルバーリング。
しかし、降谷をゼロと呼ぶ友人がいたことから、まるで彼のイタズラかとさえ思える偶然に、作り直しはできなかった。
(ゼロ…、何か引っ掛かる…何か…)
今にも切れてしまいそうな程に頼りなく細い記憶の糸をたどる。
(ゼロ…、ゼロ)
掴めそうな何かに必死に手を伸ばす。
(…い、痛っ)
は割れそうに痛む頭を両手で抑えた。
掴めそうだった何かは跡形もなく霧散し、ゆっくりと映像は流れ始める。
からっぽだった自身は形成されてゆく。