【名探偵コナン】Redo*misty【降谷/ 赤井/ジン】
第10章 零の奪還
研究室のロックも、案の定解除されていた。
窓から室内を覗けば、研究員も爆発に慌てたのか誰1人残っている者はいない。
研究員の多くはシェリーのような境遇の者が多く、この場から逃げ出せたのなら好都合だと思える。
扉をあけデスクに並ぶPCを見渡すと数台のディスプレイは明かりを灯したままだった。
『あら、不用心ね』
USBが接続されたままのPCを選び、椅子に腰をおろしキーボードを叩くと、ディスプレイには無数の英数字の羅列が流れるように打ち込まれ、数個のファイルに行き着いた。
そこには自身の目を疑う情報がもたらされていた。
『まさか…できていたのね』
解毒剤そのもののデータが存在していた。
APTX4869と解毒剤のデータをUSBに移しはじめる。
『コピーに3分、そのあとデータの抹消。その間に、水族館での借りは返すわよ』
持ち出したライフルケースから、水族館でお世話になった組織御用達のC4爆弾を取り出し、研究室と薬品庫に次々と設置した。
『…我ながら……』
自身の手際の良さに呆れつつも設置を終えると、すでにデータの移行が終わっているUSBを引抜き、胸の谷間に挟み込んだ。
そしてまた英数字の羅列を流れるようにPCに打ち込むと、組織のメインサーバーから全てのデータを抹消にかかる。
『思い出したくなかったけれど…記憶が戻らなければこんなことは出来なかったわね…』
数十年の時を費やし研究された結果は、今まさに自身の手で潰えようとしている。
最期のエンターキーを右手薬指で弾くとAPTX4869に関するデータはゼロになる。
『これで、終わり』
爆弾のタイマーを10分にセットをし椅子から立ち上がると、ふと隅にあるデスクの上に置かれた小さな段ボール箱に気がついた。
何となく開けてみれば、良く知る顔の1枚の写真が入っていた。
『シェリー…』
シェリーと姉の写真を手に取る。
『爆発に巻き込ませるのは…嫌だな…』
半分に折ると、……やはり胸の谷間に挟みこんだ。
目的を終え部屋を出ようと1歩廊下へ踏み出せば、視界の端に黒い影が映り込む。
今、この場において、1番遭遇したくはない厄介な人物がそこにいる。