【名探偵コナン】Redo*misty【降谷/ 赤井/ジン】
第10章 零の奪還
部屋の様子を見渡していた。
窓は頑丈な鉄格子で覆われている。
換気口は工具でもなければ開けられそうにない。
奥歯に仕込んだ薬もない。
自白剤を打たれれば全ては終わってしまう。
あの時のように運良く助けは来ない。
せめて彼だけは守らないといけない…約束を違えることになっても。
(…ごめん)
ベッドのシーツを裂けば、紐は作れる。
生憎この部屋には頑丈で剥き出しの配管なら余る程にある。
(許さなくていい…)
せめて悲しむことなく、約束を違える自身を憎んでくれてかまわないと、パイプ椅子に上り剥き出しの配管に紐を括りつける。
(怖い…)
恐怖に震える身体は、パイプ椅子を小刻みに揺らし、打ちっぱなしのコンクリートへカタカタと音を立てた。
(怖い)
(怖いよ)
(…怖くてたまらない)
は意を決すると、パイプ椅子の背を思い切り蹴り飛ばした。
頸部に重みが掛かり、ずしりと動脈を圧迫する。
死ぬほど苦しいとはこういうことかと、どこか俯瞰的に感じる中、ぱちぱちと火花が散る脳裏にひとつの映像が浮かぶ。
(あぁ…彼も、…きっと最期はこんな思いだった…)
失敗した先には選択肢など与えられない。
遺せるものは、唯一、遺すものを守るだけ。
またひとつ、またひとつと映像が浮かぶ。
(あぁ…そうだった、私は……)
無数の映像は求めた時に答えず、最期を迎える今、瞬く間に脳裏に焼き付いていく。
(さよなら、…バーボン)