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【アクナイ】滑稽な慈悲

第12章 蠍の火



『ご、ごめんなさい。一人はしゃいじゃって。そろそろ戻りましょう』

『…あ、流れ星』

『どこどこ!?』


バッと夜空を見ても、そこにあの綺麗な流星はない。クツクツと笑うスチュワードに、完全に騙された、と彼女は両手を上げた。


『騙しましたね!?』

『はははっ……面白いなぁ』

『む…ほら帰りましょう!そろそろ冷えてきました!部屋はどこですか!』

『ふふ、はい。わかりました。お手数おかけします』

『それはこちらの台詞です!』


未だ笑みが止まらない。
彼女が隣にいることが何故かとても心地よく感じる。なんてこと、生きていて今までなかった。そういうものに興味が無かったわけではないが、本能的に感じたのは初めてだった。
痛みを忘れるほどに。薬の効果なんてものじゃない。胸の奥が熱い。これは、間違いない。


『(一目惚れとは言わないけど…)』


自分の考えを一蹴してみるものの、一度そうなんだと気付けば、それは毒のように体の隅々まで広がっていく。


『あの、狐のお兄さん』

『え、あ、はい』

『部屋はどちらですかね?』

『3階にあります。…ここからだと2階上がることになりますね』

『わー…頑張りましょう…!』


あくまで置いて行く気がないらしい。
その優しい心に俯いた彼は、白く滑らかな肌を仄かに赤く染めた。

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