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【アクナイ】滑稽な慈悲

第12章 蠍の火



『う、わ…』


言葉を無くすほどの満天の星が広がっている。思わず一人でに歩いて行く彼女は、両手を空に伸ばして目の前の星を掴もうと躍起になっている。
その様子を後ろで見つめるスチュワードは満足そうな顔だ。


『こんなに星が近いなんて…』

『…そんな大都市から来たんですか?』

『…私のいた街は…朝も昼も夜も深夜も、ずっと明るくて、その明るさが星を殺してた…だから、こんな綺麗な夜空、初めて見ました…!』


暗がりでブラウンの目が揺れ動いて輝く。そこに嘘偽りはない。


『蠍の火は…見えないか…』

『蠍の火?』


スチュワードが聞き返すと、残念そうに彼女は眉を下げて言った。


『一度…一度だけ、勉強に疲れた日に空より輝く街中で見上げてみると見えたんです。赤く光る星…とある小説ではそれを"蠍の火"と呼ぶんです』

『赤い星…』

『私が一番好きな星です』


スチュワードもそれを探そうと、彼女から空に視線を移してみる。
すると、丁度今、白い線が上から下へ流れて行った。


『流れ星!!初めて見た!!お願いしないと!!あぁあ消えるの早いなぁ!』

『ふふ』

『!』


スチュワードが笑うと、彼女は恥ずかしそうに俯き、服についているフードをギュッと握った。

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